紛争の内容
私設の立体駐車場内における、【車対車】の事故でした。
相談者は駐車区画に駐車しており、目の前を通る通路は一方通行の表示で整理されておりました。
買物を終えた相談者が、目の前を車が通り過ぎたことを確認してから、その車と同じ方向にハンドルを切り、少し区画を出たところ、その車は、急にバッグランプを付けてスピーディに後退をし出しました。ある程度距離が離れていた(10メートル以上)ため、近くに駐車するのかと思い、様子を見るためにその場で停止していたところ、前の車が10メートル以上下がってくる様子を見せました。急いでバッグギアに入れようとしましたが、焦っていたため、そのままなす術もなく、自車にぶつけられてしまったという事故でした。
なお、これは相談者の言い分であり、相手は、お互いに動いている時に衝突した事故であると頑なに主張しておりました。
交渉・調停・訴訟などの経過
相手保険会社と相談者は上手く行っておりませんでした。というのも、相談者の保険会社は、相談者が「100:0」と当初主張していたため、交渉窓口にはなってくれず、相手保険会社は、相談者が事故から3日後に初めて通院していたため、「そもそも怪我をしていない」という前提にたち、治療費や慰謝料の支払を拒絶しておりました。また、過失割合についても、「相談者70:相手方30」という強引な主張を貫いておりました。
このことは、弊所が代理人に入ってからも同じ主張をされましたので、まずは、人身傷害保険金を先に自分の保険会社から受け取ってもらい、その後、提訴する運びとなりました(簡単に説明すると、訴訟基準差額説という最高裁の考え方に基づき、自分の人身傷害保険を受け取れば、まずは自分の過失部分に充当でき、結果的に過失がないのと同じくらいの賠償を受けられるというスキームです。)。
訴訟では、①そもそも怪我をしたのか、②過失割合はどうなるか、という点で激突し、半年かけて、双方が代理人同士で主張立証を繰り返しました。
本事例の結末
結論としては、こちらの説得は成功し、裁判官の和解勧告に基づき、①人身損害を認めさせ、②過失割合は「相談者30:相手方70」として示談することができました。もちろん、①については裁判基準の慰謝料を前提としました。
本事例に学ぶこと
本件のように、紛争性が認められ、交渉では埒が明かないということはたまにあります。
その場合、徒に交渉に時間をかけても意味がありませんし、こちらが妥協するしか解決の道がなくなってしまいますので、早めに、裁判を決意、覚悟することも必要となります。
時間は掛かりますし、敗訴リスクは常にありますが、自分の理屈、主張を信じ、それに沿う証拠や裁判例があれば、戦う余地は十分にあります。弁護士によっては、訴訟は時間がかかる一方、あまり弁護士報酬が見込めないので、嫌がる人もいるかもしれません。しかし、私たちは、正義を求めるのが使命であると考えており、諸所のリスクを踏まえても裁判を望まれる場合、それが合理的主張であれば、裁判を厭いません。
本件のように、判決に行く前に、【勝訴的和解】に至ることもあります。
弁護士 時田剛志