紛争の内容
夜間、車も少ない道路上、Aさんは、片道一車線の道路上で左に寄せて停車しておりました。
Aさんは、進行方向を変えるため、後続車がいなくなったのを見計らって、バックギアに入れ、路外に車両後部から徐行しながら進行し、切り返して反対車線に出ようと考えました。
Aさんの車両が左後ろに進行した矢先、突然、Bさんの運転する後続車が反対車線に飛び出して追越しを掛けてきたことから、AさんはBさんの車に気づかず、双方の車両が衝突し、交通事故が発生しました。
Aさんからご相談いただいた時から、Bさんとの過失割合に対する主張の対立が激しく、Bさんは、Aさん80:Bさん20との割合を主張しておりました。これは、転回の場合に転回車80:直進車20という類型に該当するという主張であり、根拠がないわけではありませんでした。
しかし、今回の事故は、スイッチターンです。道路上で車が転回する動きそのものではないことから、転回ではなく、その過失割合が直接当てはまるケースではないとも思われました。また、Bさんも前方を注視していれば事故が容易に回避できたのであり、無理に追い抜きをした可能性も視野に、依頼をお受けしました。
交渉・調停・訴訟等の経過
交渉段階では、ドライブレコーダーの映像を取り寄せました。
Aさんの車にはついておりませんでしたが、Bさんの車にはついておりました。
開示されるまでにひと悶着ありましたが、開示されました。
これによれば、スピードや車内の音声なども録音されており、客観的な証拠となりました。
当然、Aさんの車の動きも録画されておりました。
しかし、過失割合については、お互いに譲りませんでした。
そのため、Aさんのために訴訟を提起することとしました。
訴訟では、物損で金額も大きくなかったので、簡易裁判所で審理を行いました。
お互いに主張立証を尽くし、半年程度で、判決となりました。
地方裁判所と異なり、お互いが主張をしている割りには相当早い方です。
争点は、もっぱら過失割合でした。
事故態様はドラレコで明らかでしたので、尋問という当事者双方に質疑を行う手続は省略されたのも素早い理由の一つです。
本事例の結末
判決では、このように認定されました。
川口簡易裁判所令和6年8月6日判決
・原告が意図した走行態様は、従来の進行方向とは逆の方向に進行する目的をもって一回の操作で短時間内にこれを完了するUターンを指す「転回」ではなく、同じ目的をもって行われる方向転換ではあるものの、従来の進行方向の路上において一旦停止し、付近の小路の出口等に後退した上、従来の進行方向とは逆方向に入るため右折するという複雑な動作を含む「スイッチターン」であった。
・Bさんが前方注視義務という運転者にとって基本的な義務を負っているため、これを尽くして、Aさんの動静を注視していれば、〇秒の間に、単にハザードランプを点灯して停車している車両とは明らかに異なる外観であるAさんに気づき、その意図を正確に理解できないまでも、単に停車しているとの誤った判断をすることなく、減速し、警笛を鳴らすといった容易な手段により衝突を回避することができたと言わざるを得ず、相当の過失があった。
・Aさんも、他の車両の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、転回してはならず(道交法25条の2第1項)、転回車の運転者には、一般の進路妨害(同法2条1項22号)よりも更に厳格な義務が課せられ、転回車は、その転回を完了するまでは、原則として直進車に対して劣後の立場にある。他方、直進車においても、転回しようとする車両を認め得る以上、その動静に注意し、事故を未然に防止すべき安全運転義務(同法70条)があるとしても、直進車の正常な交通を妨害する関係にある限り、過失相殺率については転回車に不利に考えなければならないとされているところ、スイッチターンをする車両であっても、後行の直進車の正常な交通を妨害する関係にある限り、不利に取り扱われる立場にあることに変わりはない。
→結論:Aさん6割:Bさん4割
本事例に学ぶこと
過失割合の認定は極めて専門的な判断を要します。
過失割合が10%異なると、支払額も受け取る額もそれなりに重大な影響を受けます。
そのため、保険会社からの過失割合の提示に納得ができない方は、グリーンリーフ法律事務所までご相談してみてください。
死亡案件、重症案件、軽微な怪我の案件、物損案件まで、幅広く、交通事故を取り扱っております。
弁護士 時田 剛志