紛争の内容
73歳無職の男性が、夕方、路上横断中に車に轢かれ、頭部外傷を負いました。
男性は入院・通院の結果、命に別状はありませんでしたが、160日以上の長期入院、560日以上の通院期間を経て、症状固定されました。
しかし、症状固定の前に、事故前と異なり、男性が「怒りっぽくなった」「性格が変わった」という家族が心配して、グリーンリーフ法律事務所にご来所されました。
その段階では、症状固定しておらず、かつ、認知能力よりも、腰の症状の治療をメインに進められていました。
当方は、事故直後の聴き取りの結果、頭部外傷があり、意識障害が認められたことから、「高次脳機能障害」を疑いました。
そこで、頭部の症状で入・通院していた病院に対し、後遺障害診断書や意識障害の所見、心理意見書、脳損傷又はせき髄損傷による傷害の状態に関する意見書などの取り付けを進めることとし、自賠責における後遺障害認定を狙い、事件の依頼を受けました。
交渉・調停・訴訟などの経過
病院とのやりとりは一筋縄ではいきませんでした。弊所は、自賠責に対する被害者請求という手続を多数経験がありますので、高次脳機能障害が認められるためには、いかなる所見が必要かを把握しておりましたので、病院に対し、各種書類の作成を依頼しました。依頼したとき、病院はポカンとされており、どのように書くのかなども理解されておりませんでした。そのため、記載例を丁寧に説明し、すべての書類を取り付けることができました。
自賠責保険に被害者請求を行い、自賠責調査事務所の専門部会(高次脳機能障害などの判定が難しい傷病は、弁護士等が入った専門部会で審査がされます)で暫くの調査期間を経て、【5級】という認定を勝ち取ることができました。
そこで、次は、相手方保険会社(任意保険会社)との交渉です。交渉では、相手保険会社は弁護士を立てて、自賠責に認定されている後遺障害等級5級そのものを争ってきました(!)。被害者救済の視点はどこに行ったのかと呆れざるを得ず、交渉では埒が明かないので公益社団法人紛争処理センターによる斡旋手続を進めることにしました。
なお、訴訟ではなく紛争処理センターを選択したのは依頼者が穏便かつ負担が少なくできる限り早い解決を望んでいたからです。
紛争処理センターでは、相手保険会社は、特に、無職者であり妻もいる被害者に対する休業損害、逸失利益、慰謝料等につき、激しく争ってきました。また、「訴訟移行の申立て」をしてきました。どうやら訴訟で争って決着を付けたがっているようでした。しかしながら、紛争処理センターは、上部にて、訴訟移行を「不相当」と判断し、被害者の立場を尊重していただけました。
その後、紛争処理センターで双方が主張書面を出し合い、証拠書類を提出し(医療照会によりカルテその他の膨大な量の診断書等も提出されました。)、最終的には、斡旋委員(経験豊富な弁護士が担当します)の【斡旋案】により、解決しました。
本事例の結末
総額として、約3000万円の賠償を受けることができました。
その中には、5級という後遺障害を前提として、入通院慰謝料305万円、後遺障害慰謝料1400万円のほか、無職かつ73歳という年齢にかかわらず、主婦休業損害(家事等を分担しそれなりに負担していたことの補填)の一部として140万円、逸失利益525万円(基礎収入は88万円程度、労働能力喪失率は79%、平均余命までのライプニッツ係数5.9421)、介護料約400万円を認めてもらうことができました。
本事例に学ぶこと
以上をご覧いただければお分かりのとおり、交通事故の専門家が対応しなければ、到底、3000万円という解決には導けなかったものと自負します。
交通事故を取り扱う弁護士には、高い専門性が求められます。
今回は、ハードルが高く、訴訟を選択していたら、これよりも低い賠償になっていたかもしれません。
そもそも、高次脳機能障害というのは、目に見える変化とは限りません。
事故時に頭に外傷を受けており、意識障害もあったというケースで、かつ、事故後に本人の性格が変わったと思われる場合には、高次脳機能障害の可能性があります。
診断書では、「高次脳機能障害」と診断されていないかもしれないのが難しいポイントです。
ご相談先は、弊所の弁護士(交通事故専門チーム)にお伺いください。
弁護士 時田剛志