紛争の内容
事故態様としては、住宅街にある信号機も一時停止の標識もない交差点において、左方からスピーディに侵入してきた相手方車両と、徐行しながら前進した依頼者の車両とが衝突したものです。
基本的には、相手方「減速せず」、依頼者「減速」によるため、基本過失割合は【相手方:60、依頼者:40】となり、依頼者にも過失が生じる事案でした。
交渉・調停・訴訟などの経過
依頼者は腰の骨を折る怪我を負い、長期間、療養を受けました。なお、通勤災害でもあったため、労災が適用され、労災補償給付による通院を継続しました。
症状固定後、まずは労災に障害補償給付を申請し、14級が認定されました。
その後、自賠責に後遺障害申請をし、同じく14級が認定されました。
ここで、損害額が確定しますが、本来であれば、例えば依頼者の損害が「300万円」であった場合、そこから過失分(40%)である「120万円」を差し引き、相手に請求できるのは「180万円」ということになります。そこから、障害補償給付(特別給付金を除く)、自賠責からの一時金を「既払金」として差し引かなければなりません。つまり、「120万円」の部分はまったく補填されないことになってしまいます。
本事例の結末
しかしながら、それでは、過失部分は一切の賠償が受けられないということになってしまいます。
そうすると、「一生懸命、人身傷害保険を支払っていたのに痛い思いばかりして何なんだろう」ということになりかねません。
そこで、①人身傷害保険金(依頼者がご自分で保険料を払って加入している保険会社)の受領を先行し、慰謝料等を含め、相手方の支払よりも先に人身傷害保険を受領します。そして、②相手方に「訴訟」を提起します。
そうすると、①で受け取った金額を既払いとして充当するのは、過失部分(上記でいう120万円の部分)から受け取ったことにしてもらうことができます(訴訟基準差額説といいます)。
そのため、②を訴訟提起によることで、残りの損害部分を全額、相手方に請求することができます(厳密には、①の金額が120万円超える場合には、その超えた部分のみを、180万円から差し引きます。①の金額が120万円以下の場合には、その金額と120万円との差額部分については過失相殺により請求することはできません。)。
以上から、依頼者は、トータルでみると、人身傷害保険金から120万円を受け取り、自賠責・労災・相手方から180万円を受け取ることになり、あたかも無過失であったのと同じように賠償を受けることが可能になります。
なお、ご自身の過失がなくなるわけではありませんので、相手方の損害に対しても、自分の過失(40%)に相当する部分は支払わなければなりませんが、それは、自分の任意保険会社から支払うことで、持ち出しを回避することができます。
本事例に学ぶこと
以上のように、何が依頼者にとって最善の進め方かどうはか、事例および依頼者の意向により異なります。上記のような進め方は、訴訟を前提としなければならず、リスク(訴訟では、時間がかかりますし、怪我の程度そのものが争われ損害額が減額されたり、過失割合が争われたりなど、様々なリスクがあります。)も踏まえ、進めていく必要があります。
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弁護士 時田剛志