バイクや自転車に乗っているときに交通事故に遭うと、膝の前十字靭帯を損傷してしまうことがあります。
今回は、膝の靭帯を損傷してしまったときに、どのような後遺障害が認められる可能性があるか、慰謝料はどうなるかについて紹介します。

1 交通事故における前十字靭帯の損傷

交通事故が発生した際に、膝の前十字靭帯を損傷してしまうケースとしては、以下の例があります。

・自転車に乗っているときに、自動車と接触し、足に強い力が加わる
・バイクに乗っている際、転倒したことが原因で、膝をひねってしまう

前十字靭帯とは、膝関節の内側にある、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぐ靱帯です。
この前十字靭帯は、脛骨が前に大きくずれることや過剰なねじれが生じることを防ぎ、関節を保護する、安定性を維持するといった役割を担っています。

前十字靭帯が損傷すると、「ぶちっ」という断裂音がすることがあると言われています。
そして、激しい痛みに襲われ、動けなくなってしまうこともあります。
関節内に出血が生じ、腫れや痛みを感じることもあります。
もっとも、受傷から時間が経過すると、徐々に腫れや痛みは軽減していきます。

なお、きちんと前十字靭帯の損傷の診断を受けるためには、MRIやストレスレントゲン撮影等の検査を受けることが望ましいです。
これらの検査で撮影された画像は、後に、交通事故との因果関係や、後遺障害の認定を適切に受けるという観点からも重要になります。

2 前十字靭帯を損傷したときの後遺障害

⑴ 前十字靭帯の損傷によって残る可能性がある後遺症

前十字靭帯を損傷したときは、大きく分けて、手術的治療と保存療法が検討されます。
前十字靭帯の損傷においては、多くの場合には手術による治療(患者自身の腱を採取して、前十字靭帯に移植して再建する等)を行うと言われていますが、高齢者である等の事情がある場合には、保存療法が選択されることもあるようです。

もっとも、医師による懸命の治療やリハビリが行われたとしても、完全には治癒せず、
・膝を曲げたり伸ばしたりすることが十分にできない
・膝関節が安定せず、うまく歩行できない
・前十字靭帯を損傷した部位に痛みが残る
などの後遺症が残ってしまうことがあります。

⑵ 交通事故のおける後遺障害の認定

交通事故にあって後遺症が残ってしまった場合には、自賠責損害調査事務所という機関に後遺障害等級を認定してもらうことになります。
後遺障害の等級は、「自動車損害賠償保障法施行令」で定められています。
自賠責調査事務所において、後遺障害の等級が認定されると、認定された後遺障害に応じて、慰謝料や逸失利益などに関する損害を請求できます。

前十字靭帯を損傷した場合には、揺動関節、可動域制限、神経障害といった後遺症が残っていると判断される可能性があります。

ア 揺動関節

前十字靭帯とは、膝関節の中にある、大腿骨と脛骨をつなぐ靱帯であり、関節を保護する役割を持っています。
前十字靭帯を損傷することにより、膝関節が不安定になり、ぐらぐらしてしまうことがあります。
また、膝が変な方向に曲がってしまったり、動いてしまうということもあります。

このような状態を揺動関節といいます。
そして、揺動関節においては、補装具の装着の必要性に応じて、以下の後遺障害が認定される可能性があります。

●後遺障害等級 第8級7号
「1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」
●後遺障害等級 第10級11号
「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
●後遺障害等級 第12級7号
「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」

なお、各等級の差異の目安としては、
第8級7号…日常生活において、常に補装具が必要
第10級11号…日常生活において、ときどき補装具が必要
第12級7号…重労働の時以外は、補装具を必要としない
となります。

また、ここでの補装具とは、金属やプラスチックなどでできている硬い装具のことを言います。

イ 可動域制限

前十字靭帯を損傷したことにより、膝関節の曲げ伸ばしをすることができる角度に制限が生じることがあります。
その場合、曲げ伸ばしの制限の程度に応じて、10級11号または12級7号の後遺障害が認定される可能性があります。

●後遺障害等級 第10級11号
「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
●後遺障害等級 第12級7号
「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」

ウ 神経障害

前十字靭帯を損傷し、治療を続けても、痺れや痛みなどの症状がずっと残ってしまうことがあります。
そのような神経症状が残ってしまった場合には、以下の後遺障害等級に該当する可能性があります。

●後遺障害等級 第12級13号
「局部に頑固な神経症状を残すもの」
●後遺障害等級 第14級9号
「局部に神経症状を残すもの」

医学的証明の有無によって、12級または14級が認定されます。

3 後遺障害が認められたときに請求できる項目

前十字靭帯の損傷による後遺障害が残ってしまった場合、加害者に対して請求できる損害の項目としては、主に後遺障害慰謝料と逸失利益が挙げられます。

⑴ 後遺障害慰謝料

後遺障害が残ってしまったことに対する慰謝料です。
この慰謝料には、3つの基準があります。

1.自賠責基準
自賠責保険とは、自動車を運転する人は必ず加入する強制加入保険です。
その自賠責の基準は、最低限の補償をするための基準です。
2.任意保険基準
保険会社が独自に定めた基準で、自賠責基準よりは若干高いと言われています(基本的に、基準は非公開となっています。)。
3.裁判(弁護士)基準
裁判所で、算定の基準として採用されているものです。
その金額は、3つの中で最も高額です。

以上より、被害者にとっては、裁判基準がもっとも良いということになります。
しかしながら、保険会社は一般的に、「弁護士が代理人で入っている場合」や「裁判での判決の場合」、「交通事故紛争処理センター等でのあっせんを受けた場合」にしか、裁判基準での支払いをしようとしません。
ご自身で交渉している場合は、ほとんどの場合、自賠責基準か、自賠責基準とほぼ同じ基準である任意保険会社の独自の基準で慰謝料額を計算し、提案してきます。

したがって、慰謝料を増額する簡単な方法の一つは、弁護士を代理人としてつけることになります。
弁護士に依頼していない場合、保険会社は、たいていは自賠責基準に近い金額の慰謝料額を提示してきますので、示談の際には注意が必要です。

⑵ 逸失利益

後遺障害が残ってしまったが故に、将来得られるはずだったのに得られなくなってしまった収入のことを、「逸失利益」といいます。
逸失利益の基本的な考え方は、1年あたりの基礎収入に、後遺障害によって労働能力を失ってしまうことになると想定される期間(労働能力喪失期間)と、後遺障害によって失われた労働能力の割合(労働能力喪失率)を乗じて計算することになります。
(ただし、将来もらえるはずの金額を、現時点で一括してもらうことになるので、中間利息を控除することになります)

もっとも、保険会社によっては、前十字靭帯の損傷による後遺障害が残ったとしても、現在の仕事の内容からして今後の収入には影響しないと主張して、逸失利益の全部または一部を否定してくることもありえます。
その場合、交渉や訴訟の中で、事故によって将来の収入が減少すると言えるのかが問題となってきます。

4 交通事故で前十字靭帯を損傷してしまった際は、ぜひ弁護士へ相談を

前十字靭帯の損傷は、スポーツ選手の怪我として、ニュースなどで聞いたことがあるかもしれません。
この前十字靭帯の損傷は大きな怪我であり、残念ながら、後遺症が残ってしまう可能性は否定できません。

後遺障害が残ってしまった場合には、しかるべき賠償金をきちんと受け取れるよう、弁護士に相談することをお勧めします。
ご自身で交渉するよりも、弁護士が交渉する方が、受け取れる賠償額が大きくなることが多いです。

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■この記事を書いた弁護士
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弁護士 赤木 誠治
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