紛争の内容
依頼者は自動車に搭乗中、多重事故に巻き込まれ、頸椎捻挫の受傷を受けました。通院治療を受けながら保険会社と交渉を続けていましたが、保険会社の対応に不信感を覚え、弊所にご相談されるに至りました。

交渉・調停・訴訟などの経過
事故後、痛みが強く残っていることから、後遺障害の申請をすることを視野に入れ、依頼者の方には引き続ききちんと通院治療をするようお願いしました。依頼者の方は、保険会社からの通院治療費の支払を打ち切られた後も、自費の保険診療での通院に切り替え、根気強くリハビリ治療を継続していただけました。そのような事情を盛り込んで後遺障害の申請をしたところ、後遺障害14級9号との認定を得ることができました。
その後、当職らは保険会社に対し、通院慰謝料・後遺障害慰謝料を、赤い本という客観的な基準に基づいて請求しました。これに対し、保険会社は赤い本の基準の70%という低廉な金額を提示してきました。そこで、何ら合理的根拠もなく、赤い本の基準を下回る損害賠償額では到底承服できないとして、交渉を重ねていきました。

本事例の結末
最終的に、保険会社は、依頼者が満足される損害賠償額の支払をすることを認め、特に後遺障害慰謝料については赤い本基準の100%の支払をすることを認めました。

本事例に学ぶこと
本件では、頸椎捻挫という外観では分かりにくい受傷内容であり、後遺障害が認められるか不透明でした。しかし、被害者である依頼者が根気強く、治療費をご自身で負担しながら、通院治療を継続されたことも相まって、後遺障害が認められるに至りました。依頼者の真摯な努力が実を結んだ一例となりました。
通院慰謝料及び後遺障害慰謝料については、赤い本という、客観的・具体的な数値が掲載された基準があり、慰謝料の金額は当該基準に基づいて算定されるべきです。しかしながら、保険会社が、訴訟ではない交渉段階という理由で、赤い本の基準の70%から80%の金額提示をしてくることが常態化しています。弊所では、被害者が得るべき賠償が訴訟か訴訟外かで異なるというのは被害者保護の観点から適切ではなく、100%支払うよう保険会社に対して強く主張しています。それでも保険会社が支払を拒絶する場合には、紛争処理センターを利用したり、訴訟での解決を図ったりすることになります。本件でも、保険会社の提示に安易に従うのではなく、粘り強く請求していくことで、合理的な算定方法に基づく慰謝料を獲得することができました。

弁護士 申景秀 平栗丈嗣