紛争の内容
「車 対 自転車」の接触事故でした。
相談者のAさんは,自転車の運転者で,鎖骨に怪我を負いました。
交通事故後,別の原因が介在し,怪我が大きく悪化し,再度の手術を行うなどしました。
保険会社からは,別の原因があるとして,治療費の支払いを止められました。また,因果関係を争う姿勢を見せました。
そこで,当事務所では,自賠責保険の被害者請求と相手方加入の保険会社との交渉事件として受任しました。

交渉の経緯
まずは,自賠責保険の被害者請求を行いました。被害者請求では,診断書等の必要書類のほか,Aさんの陳述書をまとめて提出しました。審査には,普段より時間が掛かりました。しかし,結果は,事故と現在の怪我との間の因果関係が認められないとして,後遺障害等級は獲得できませんでした。ここで,法的な因果関係とは,「あれなければこれなし」という条件関係では足りず,ある行為と結果との間の相当性が要求されます。Aさんの場合,事故とは別の原因が大いに影響しているため,法的因果関係の立証は難しいと思われました。また,事故からある程度の時間が経っていたため,Aさんには,早く解決したいという思いがありました。
そこで,自賠責保険との関係では争わず,相手方加入の保険会社との間で交渉を開始することにしました。その内容としては,実は「別の原因」というのは,事故から日が浅い時期に起きていたため,ガチガチで争った場合,それ以降の慰謝料を含む損害賠償請求がそもそも認められないというリスクがありました。他方で,事故の怪我は他覚所見があるものでしたので,少なくとも事故後6ヶ月は交通事故の影響で通院していたとして,その分の慰謝料を請求してみることになりました。その結果,何度か反論がありましたが,結果としては,Aさんは,6ヶ月分の慰謝料を受け取ることが出来ました。

本事案に学ぶこと
交通事故では,行為と結果(怪我と後遺症)との間の因果関係が認められる必要があり,この点はよく問題になります。例えば,元々持っていた持病(ヘルニアや関節症等)との関係が争いになることもありますし,今回のように他の原因(別の時期の事故や怪我)が介在して因果関係が争われることもあります。仮に裁判になると,弁護士費用のほか,因果関係を立証するための費用(医学的意見書等)がかかるほか,仮に因果関係がないとされれば,請求は棄却され,1円も受け取ることが出来なくなってしまいます。そうなれば,大赤字です。
そこで,示談交渉という手段が活用されます。示談交渉では,お互いにリスクがある(前の例で言うと,仮に裁判所が因果関係を認めれば,保険会社は満額を支払わなければならない)ため,双方が譲り合って落としどころを探ります。当然,裁判になったら10割方勝てると思われては交渉になりませんので,「裁判になったらどうなるか分からないよ」と伝えるために,交渉においても適切な資料を示して主張を行います。
今回も,立証するまでもなく,約120万円の慰謝料をベースとして認めてもらうことができた点で,示談交渉が生かされたケースと言えます。